novel99’s blog

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アナザヘブン その2「綿引の憂鬱」その3「皆月の憂鬱、幕田の憂鬱」

●皆月悟郎(大沢たかお

●幕田ユウジ(加藤晴彦

●大石紀子(本上まなみ

●綿引亜希美(室井滋

●黒川忠夫[美術商]

●矢野祥子[失踪者第一号]

●稲富圭一[祥子の婚約者]

●吉村香織[失踪者二号]

●木内ルミ[天文サークルでの友人]

●須賀静江[同じく]

●篠原加奈子(新山千春

●坂木警部

●両角刑事

●早瀬マナブ(江口洋介

●飛鷹健一郎(原田芳雄

●大庭朝子[早瀬の恋人]

●木村敦(柏原崇

柏木千鶴[失踪者兼殺人者]

●笹本美奈(松雪泰子


「ねぇ、あんたさ、どうして色々な所に首つっこんじまうんだろね。」

綿引が幕田ユウジに笑いながら聞く。

綿引の事務所。幕田ユウジは、黒レザーのリラックスチェアーにもたれた綿引に背中を向けて机の上に座っている。

「えっなんでてすか?」

頭だけ返して聞く幕田。

綿引は、机の端の方にあるライターとタバコに手を伸ばし、腰を浮かせながら話を続ける。

「えっだぁって、そうじゃなぁい。あんた、今回の事件にも、飛鷹や早瀬が追ってた事件にも絡んでいるんでしょ。」

そして、タバコに火を付けて、長めに吸い、煙を吐く。生き返った顔をして、にやけて幕田の返しに気持ちを戻す。

「ええっまあ。でも、絡んでいたというより、ただ知っている位かな?」

ははっと鼻に通る笑いをして、両肘を机について、片方の手はあごに、タバコを持ったもう片方は口元から離して、手のひらを返した。

「知っているって程度じゃないでしょうーに。」

灰が落ちる前に、灰皿に灰を落とす。

幕田の方は、綿引に近い方の腕を支えに上半身を返して、あの乾いた感じの笑いをした後で、

「いやいや。僕はただの傍観者ですよ。なんか僕も犯罪者みたいな言い方やめてくださいよ。」

と言う。そして、はっと気づいて、続ける。

「あっそうだ。聞こう聞こうと思っていたんですけど、早瀬さんや飛鷹さんの行方知っていますか?」

唐突な質問。適度に重みを持ったそれに対して、しばらく遠い記憶を探すように、ワンテンポ時間をおいて綿引は言う。

「だからぁさっきも言ったでしょ。私は何も知らないって。そりぁ、気にはなったから、あのハゲに概要は聞いたわよぉ。でも、あの二人がどうなったかまでは教えてくんなかったわ。

まぁ別に、気にはなってたわよ、気には・・でもねぇ、まぁ知らなくていいことも多いからね。知っても得になんないし。」

無関心と、知ることへの漠然とした怖さも含んだ解答に、幕田は知ってか知らずか「なぁーんだ知らないんすか。」と残念そう。

と思いつつも、そう思った後に、幕田自身も無理に知る必要はないような気がした。

今まで続けてきたスタンスを崩すことが、どんどん早瀬さん達に近づく結果を導きそうな思いが浮かび、自分に言い聞かせる。

「そういうこと。警察内部の事は、あんたの方が詳しいのよ。・・警察オタクさんっ」

今日一番の嫌みを含んだにやけ顔をする綿引。それに対して幕田は眉を寄せて

「うわっ感じ悪っ、それにオタクって止めてくださいよ。マニアって呼んでください。」と言い、足を床に着けて机から腰を離した。

「どっちもかわんないじゃない。」

机上の肘を崩し、リラックスチェアーの背もたれに体を戻す。そして、また大きくタバコを吸う。

「違います。オタクってのは・・・」

座るのを止めて綿引の方を見て立ち上がった幕田は、唇を少しとがらせて指を綿引に向け力説しようとする。

「わぁ暑(ア)っちーっ。」

その力説の途中で、うるさげな足音が聞こえ、部屋のドアが大きく開き 皆月悟郎が入ってきた。

シャツのポケットの少し下を摘み、バタバタとさせて、顎を上げた皆月は、しかめた顔のままで、幕田と綿引に「よぉっ、」と軽く挨拶をする。

「またこんな所で何やってんの。それよりさぁ、相変わらず、この事務所暑くない?。」

今まで目線だけだったのが、顔を二人に向けて出た言葉がこれだった。

皆月は接客用ソファーにどっかりと座る。

「外よりは涼しいわよぉー。それに私ガンガンにクーラーかけるのって好きじゃないの。」

綿引は目をほんの少しばかり細めて、まだ会話を楽しむ余裕の微笑み加減の表情で言う。

「うわぁーケチケチすんなよぉ。あくどい商売して儲けてらっしゃるとお伺いしましたが・・」

このコメントの間に、皆月は体を前に戻し、膝の上に肘を乗せて、こちらもまた同様な微笑みを浮かべて返す。

「コレはね、金の問題じゃないの。体質の問題なのよ。それにねぇ、暑い暑い言うんだったら、その蛇皮ブーツ脱いだら、見てるだけで むさ苦しいわよ。

うわぁ最悪。」

余計なお世話よとかわした後、背もたれに もたれかかるのを止め、眉を寄せて、タバコを持った手を前に出し、ソレよソレと皆月の足下を指さしてホント嫌そうな顔をして言う。

皆月はそれに対して う に重みを置いて

「うるせぇー、・・」

と言い、続けて吐くように、それでいて徐々にゆっくりと、

「・・これはポリシーの問題でね。」と続ける。

「それより、こんな中途半端な時間に何のために来たのよ。嫌み言うためじゃないでしょ。」

しかめっ面はそのままに綿引は皆月に言い、そして幕田の方をチラと見る。

幕田はそうそうと首を二、三回軽く振り皆月を見る。

「別(ベッツ)にぃぃー。」その二人の視線を避けて、馬鹿にしたような返し方をする。

「なら帰りなさいよ。私はあんたと違って大忙しなの。」

怒り混じりに口癖のコメントを綿引と、依然として無視の皆月の間に入ろうと、幕田は皆月の前に座る。

「まあまあ、落ち着いて」

と、皆月の方から、体をネジって綿引の机の方を見て、二人をなだめる。

うるせぇー落ち着いてるよ と皆月は言いながら、後ろ向きの格好のままの幕田の後頭部をひっぱたく。

「叩かないでくださいよ。マジにたたくんだからぁー、痛(イ)っつー。・・・・

幕田は、勢いよく皆月の方に体を戻して叩かれた頭を押さえる。

          ・・・・大石さんは目覚ましたんですか?。それ言いに来たんですよね。」

まだ痛がった様子のまま、聞く。

「あっそうそう。それ。紀子が、やっと目 覚ましたんだ。それでおまえの事だからさ、この事務所にいると思って。」

撫でていた手を止め、不思議そうに斜め上を見て、また視線を皆月の方に戻して幕田は「えっ何の話ですか?」と質問する。

「部屋だよ。部屋。おまえの部屋を借りたいの。紀子の部屋じゃまた何かあるかも知れないからな。」

皆月の説明に、まぁ納得の幕田は「紀子さんは?」と続けて聞くと、皆月は「今、まだ病院。」との返し。

「部屋はいいですよ。」

それにうなずきながらも、皆月は、忘れたことを思い出したように、

「いいですよだけじゃねぇよ。車。車。今から紀子の私物取りにいくんだよ。」と軽めに怒鳴る。

「えぇー俺の車で ですかぁー」と幕田が嫌そうになじっている間に、もう皆月はソファーを立ち、ドアに向かっていた。

そして、はやく来いよっと幕田を招き手で呼び、それに応じて仕方なさそうに幕田も立ち上がる。

二人で出ていこうとした瞬間、皆月は足を止める。

「あっそうだっ・・・」

勢い余って幕田は皆月の背中に軽くぶつかる。えっと思い、皆月の顔を見上げると、皆月は肘を曲げて軽めに綿引を指さしていた。

「・・・紫の石には気を付けろ。なんか今回の事件、そいつが大きく絡んでいるみたいだからな。」

全て言い終わる前に皆月は部屋を出ていき、それじゃあと笑顔で挨拶をして幕田も後に付いて出ていく。

「ふーん。」

綿引はまた大きくタバコを吸い、吐く。知ってるわよそんな事っ と心の中の思いを込めて、誰にも聞かれもしない言葉を、ゆっくりとリクライニングチェアーを倒しながら、漏らす。

記憶にまだ深く残っている掛川知美の言葉が頭をよぎる。

投げ出された紫の石が自分の手の中にとっさに納められ、その瞬間に拳銃で頭を撃ち抜いて、血と細々(こまごま)した固まりが散らばる。

そして、「・・自分で確かめてみたら・・」と自殺する前の微笑み混じりの掛川の顔と、言葉。

当たり前のように繰り返されるこの混じり合いのシーンに、嫌気混じりの微笑み顔で

「ふざけんじゃないわよ」と呟き、タバコを灰皿に押しつける。

幕田のワゴンに乗り込んだ二人は、大石紀子の家を目指していた。

紀子が幕田の部屋にいる事を綿引は知る。綿引は、今のどっちつかずの不安定な心持ちを、最終的に全て一方に傾けて、決着をつける決意で大石紀子のもとを訪れる事になる。

             「・・ざけんじゃないわよ。」


さっそく幕田のワゴンに乗り込んだ二人は、大石紀子の家を目指していた。

しばらく走った所で、

「大石さん、完全に大丈夫なんですか?」

と幕田はハンドルをきりながら皆月に質問する。

へっ?、窓の外をぼんやりと眺めていた皆月は

「ああ。少し精神的に不安定だけど。・・俺がそばにいた方が落ち着くらしいから」と言う。

大石の安全と、皆月がその事を最重要視している事にほっとした感じの幕田、話を続ける。

「そうっすか、良かった。・・・・・悟郎さん気にしているんでしょ。あれ、この前聞いた、何でしたっけ・・えーと、そうそう・・・・おまえたちは結ばれない運命だ。」

皆月の頭の中で、ルミの言葉が再生される。病室のベットに下半身を沈め、上半身だけを起こし自分と大石紀子だけを見るように、食い入る強烈な視線とともに発せられる言葉。

「似てねぇよ。」

続けて小山の同様の言葉が再生される。

「似せたつもりはないんすけど。」

軽い笑いをした幕田には、さらに遠くを眺める皆月の表情が見えなかった。

しばらく沈黙が続いた後、言葉を発したのは皆月の方だった。

山辺綾子の方は、どうなったんだよ。」

ちらっと皆月の方を見て、また前を見る。

「まだ、見つかってないようですよ。ただ・・・、」

「ただなんだよっ」

窓側にねじられた体を元に戻し、幕田の方を見て せかすように言う。

「明日に僕ん家に来るんですよね、その時にはきっと行方、分かっていると思いますよ。きっと事件もまた起こってると思うし・・」

ほんの一瞬間が空いたが、すかさず皆月の手が幕田の頭にのびる。

「どうして、そんな事分かるんだよぉっ。おまえもおかしくなったんじゃねぇのか?」

叩かれた拍子に眉を寄せて痛そうにする幕田。その後心配そうに、根拠ともならないように思いながらも、それを述べる。

「もぉ、叩かないでくださいよぉ。

・・最近、事件が起こるんじゃないのかなぁーと思っていると、高確率に、警察無線をキャッチするんですよね。」

その話の間、皆月はまた頭を窓側に向けて話を聞いていたが、幕田の話が終わると、素早く体を大きく運転席の幕田の方に寄せて、幕田のジャケットやらパンツのポケットなどを激しくあさり始めた。「なっ、なんなんですかぁー危ないですよぉー」と幕田は驚き顔で叫ぶ。

車が少し蛇行して、揺れる。キュルキュルとタイヤが擦られる音が二、三回する。

「おまえ、紫、紫の石、持ってねぇだろうなっ」

手を止めて、皆月は幕田と目線を合わせて問う。

皆月の焦りが少し混ざった真剣な表情を見て、幕田は「もってない・・です」と言葉の上っ面をなぞるように言う。皆月はそれを聞くと体を元に戻す。

幕田は思う。紫の石。人の暗闇を刺激するらしい石。僕は、その石そのものだ。

世の中の暗闇が刺激されるのを好ましく思う自分。

事件を追い、興奮する。きっと望んでるんだ。傍観者という立場ではなく、事件を、人の傷つくところを希望する狂熱的信者みたいなもの。

皆月の方は、一瞬まさかなと思った事が、やはり考えすぎだと、幕田を信じる事にした。そして、軽い口調で「じぁどうして、次起こる事件が虫の知らせみたいに分かっちまうんだろうな」と聞く。

「知りませんよぉっ」

皆月は驚愕する。幕田のイライラした感じの大きな怒鳴り声は、空気の動きを止めた。

すぐに、幕田自身が落ち着いて「あっすいません。なんでもないです」と声小さく言い、また元に戻った。

・・・僕は、そう、犯罪者そのものだ。

「おまえ、大変な事に首つっこんじまったな。」

幕田の目の前にはトレンチコートを着た大男と、長髪で端正な顔立ちの男が立っている。

前なら、今の思いじゃなければ「そうでもないですよ、早瀬さんたちと比べたら・・」と言えるのに出た言葉は

「はい。・・・どうしたら、いいんでしょうね。」だった。

風に揺られて、丈の長い雑草が左右に揺れている。弱気な僕の言葉も飛んでいってしまいそうだった。

「なぁ、幕田。マクタだったよな、おまえの名前。」

背中を向けていたトレンチコートの男が幕田の方に返って、質問する。飛鷹刑事だ。

「はっはい」という幕田の返事を聞いて、飛鷹は話を続ける。

「なぁ、幕田、おまえ脳味噌食ったことがあるか?」

ドスの利いたその声に拍子よく「えっ、」と息を漏らし、頭を横に振る。

「昔や、どっかの部族の連中は、死人の脳味噌やら、心臓を好んで食べたらしい。

つまりな、危険なのは、起こる結果じゃなくて、心にわき上がる意志って事だ。」

その事を聞いて、幕田は益々焦る。不安でしょうがなくて、地面ばかりを眺めている。

結果は世の中の規範によって善悪が区別される。だが・・

「でも、行為という結果を踏みとどめるのも意志にかかっている。」早瀬が丁寧に続ける。

・・根本は、悪意をもっているか否かが問題なのだ。

幕田は、少し目線を上げた。飛鷹と早瀬の腰のあたりまで。それらは遠ざかり始めていた。

顔を正面に向けると、二人とも幕田に対して後ろ姿を見せていて、ゆっくり歩いていた。

幕田が「あっ」と言うのに重なって、二人が少しこちらを見た気がした。そして片手を挙げて、別れの挨拶をしてくれた。

幕田は草原にひとり取り残された。

また風が吹き、サラサラと草が重なり音をたてている。

幕田は泣きたくなった。

その時、ぐっと何かに胸が締め付けられた。

目の前に車のフロントが見え、光がそれに反射してきて、目を伏せる。

皆月悟郎の足が運転席の足下部分に無理矢理突っ込まれているのが見えた。

前のめりになった体が後ろの背もたれに戻されていく。

そこで初めて、幕田には、車が急に止まってタイヤがひどく擦れる最後の音の部分が聞こえた。

「何やってんだよぉー」

皆月の怒った顔が幕田の顔のそばにある。

そして、心配そうに聞く。一粒の汗が頬の横をつたう。

「おまえ・・ホントに大丈夫か?・・・。」

幕田は大きく深呼吸をして、「ええ・・」と答えて、それを聞いた皆月は二、三度軽くうなずいて姿勢を戻す。

幕田は、前をしっかり見据えて誰に聞かせるわけでもなくつぶやく。

                「・・・・大丈夫ですよ。」


▲第9話、第8話がベース。時間設定は、ちょうど第9話の真ん中付近かな?。

うまいこと空いていた時間を補完するストーリーにしたつもり。長くなったので、事務所での三人の部分と車での二人部分を分けました。